多様なデザインの兆し
今年は日本のデザインが、地球環境問題という新たな課題を本格的に背負うことになった年だと思う。あのペルシャ湾岸で油まみれになった水鳥のニュース映像が、戦利的な情報意図を超えて、むしろ万人に環境汚染の実感を自覚させる効果を与えたのだった。
「環境にやさしい」は、合言葉のように拡大しつつある。この夏、和光大学の竹原あき子教授は、その著『環境、先進、企業』で企業も消費者もエコロジカルなデザイン路線へ移行することを提唱した。通産省のGマーク選定に〈地球にやさしいデザイン〉の賞が登場したのも今年である。こうした考えは、今後徐々に社会に浸透していくに違いないが、デザインがそこでいかなる創造的活力を発揮するかは今後の課題であろう。
創造的といえば、わが国で商業空間のインテリアばかりか、家具にまで強い影響を与え続けてきたデザイナー、倉俣史郎氏が突然亡くなった。デザイン学校の毎年の学生の作品でさえ、いかにもクラマタ的なと言えそうなものがいつもあるくらい人気があった。現代アートを現実のデザイン造形に巧みに展開させる氏のパーソナリティーがさらに何かを生み出すか期待されたのだが、心残りである。
アーティストの才能がありながら、実は独自の生産現場から日本の伝統的瓦を湘南台文化センターなど、現代建築の中に蘇らせた淡路瓦師、山田脩二氏が、第一六回吉田五十八賞特別賞をこの春受賞した。それは、日本の土を現代生活の新素材として瓦に託した山田氏の情熱の結実である。
そのことは、瓦のみならず、近年デザインから遠ざけられていた諸々が、今一度、多様な姿でデザインに請われている兆しの時ではないかとも思う年の暮れである。
産経新聞_1991年8月~1992年1月
デザイン人類学